第3回 中野島駅~多摩川を歩こう!
2005/03/151. JR中野島駅
2. 住居表示街区案内図
3. 梨畑
4. 中野島小学校の火の見やぐら
5. 浅谷さん家の野菜直売所
6. 中野島卓球場
8. 中野島稲荷神社
9. 多摩ふるさと資料館
10. 旧府中街道
11. 二ヶ領用水と三沢川
12. 二ヶ領上河原堰
おさんぽ記
JR中野島駅(1)のそばにそびえ立つ高層マンションを見上げてから、駅前の住居表示街区案内図(2)を眺めます。「線路を渡って行くと多摩川、反対には二ヶ領用水。どちらへ行こうかな?」と、おさんぽ計画を練っていると、地図上に「字新田」「字馬場耕地」などの地名が記されていることに気がつきました。天正18年(1590)、多摩川の大洪水によって現在の位置となり、開墾されたこの地。その歴史に由来した旧地名でしょうか。
駅のホームに沿って梨畑(3)が広がります。川崎市では江戸時代から梨の栽培が始まり、昭和初期には「多摩川梨」として東京近郊の市場で有名になりました。第二次世界大戦時、米を生産するため梨畑は水田として利用されたものの、戦後に復興。しかし、現在は都市化のあおりを受け、栽培面積は年々減少しているようです。
元気な声が響きわたる中野島小学校の校庭に火の見やぐら(4)を見つけました。約20年前、火事を知らせる半鐘がサイレンに取って代わることになった際、町内にあったものを記念にしようと移設したのだそう。「以前はここから登戸の方へ行ったところに、火の見やぐらが建っていたの」と、校門前の文具店のおかあさん。うん、街の思い出、大切にしたいな。
駅前から続く商店街を行くと、左手に見事な造りの小さなお家(!?)。ここは専業農家・浅谷さん家の野菜直売所(5)です。「野菜のためを考えると冷暖房は入れられないので、こういう造りになりました。天然木を使っているため、夏は涼しく、冬は暖かいんです」と、ご主人の浅谷さん。「と言っても、開けっ放しなんで、冬はさすがに寒いですね……」。
寒い冬でも熱気をみなぎらせているのは、中野島卓球場(6)。昭和45年(1970)から近隣の人々の憩いの場として愛されてきた場所です。「主人と娘は卓球の選手。私もするけど、私は球拾い(笑)」と奥さん。練習を終えたグループが、「お疲れさまー」とさわやかに帰っていきます。
さて、二ヶ領用水(7)を歩きましょう。14年の歳月をかけ、慶長16年(1611)に完成した多摩川を水源とする農業灌漑用の水路。時代とともに工業用 水にも使われましたが、今は整備され、水辺の変化のある風景を楽しめる散歩道になっています。橋の上から何気なく水の中をのぞき込んだら、コイが口を開けてこちらに集まってきました。
途中、中野島稲荷神社(8)に寄り道します。どこからか聞こえてくる川のせせらぎに誘われて行った先には、水路と田んぼ。二ヶ領用水のほかにも、中野島では水路をよく見かけます。
あるお宅の門に「多摩ふるさと資料館」(9)の看板。「このあたりで使われていた道具を並べて、いつか皆さんに見てもらおうと思っていてね」とは、土蔵を改築してこの資料館を開館した高橋榮治さん。多摩川梨の看板や化粧箱、等級の選別に使われた5つのはんこ「特」「多」「摩」「加」「和」など、蔵の中には興味深いものが続々。「うちの前の通りは旧府中街道(10)で、農閑余業として下駄屋、傘屋、油屋、糸屋などを営む家が並んでいたんですよ」。
再び二ヶ領用水をさかのぼり、もうすぐ多摩川というところで、あれれ? 二ヶ領用水が消えてしまった!? 多摩川に流れ込む三沢川(11)と交差する場所で、なんと二ヶ領用水は三沢川の下をくぐり抜け、サイフォン形式という仕組みによって、また地上に流れ出ているのです。いわば川底の下にU字型のタンクを入れたような格好。川の下へまた川が流れているとは驚きました。
多摩川にたどり着くと、視界が一気に広がります。二ヶ領用水の取水口に設けられた二ヶ領上河原堰(12)のダイナミックな風景。圧倒されながらも水の流れに目をやると、いつのまにか時間が過ぎていくのでした。
おさんぽクローズアップ!!
「浅谷さん家の野菜直売所」
「味を追究しているので、見てくれは良くないものもあるけれど、化学肥料ではなく、たい肥を使っています」と浅谷益男さん。
その野菜の評判は、次々に訪れるお客さんたちの会話でわかります。「この間買ったニンジン、昔食べていたニンジンの味がしたわ。今日もある?」「ここの野菜は甘いのよね」。買いやすいお値段も、魅力のひとつです。
■ 川崎市多摩区中野島2-7-22
■ 9:00〜 野菜がなくなり次第 日曜休
「中野島卓球場」
毎週火・金曜夜の「中野島卓球クラブ員」の練習やグループによる貸切時間以外で空いているときは、事前に連絡をすれば自由に卓球を楽しむことができます。1時間大人1人300円、中学生以下1人200円、貸し道具のラケット1本30円、球1個30円と、たいへん良心的なお値段で、ジュースなどの飲みものも100円です。
親子リズム体操や絵本の読みきかせなどにも利用され、地元のおかあさんと子どもたちでにぎわう日もあります。
■ 044-933-6644
■ 川崎市多摩区中野島2-17-5
■ 9:00〜22:00 不定休
■ 要予約
「多摩ふるさと資料館」
03年11月に開館。地域の土蔵の中に眠っていた品々などを集めた資料館。
農機具類のほか、火鉢、そろばんなどの生活雑貨、着物、蓑、下駄、わらじなどの「衣」、皿、椀、せいろ、鍋などの「食」がそれぞれ分けられて展示。「これは明治初期に営まれた養蚕で使われた種紙(写真)。カイコがこれに卵を産み付けるんですよ」などと、高橋さんが親切に案内してくれます。
■ 044-944-4789
■ 川崎市多摩区中野島1-7-18
■ 土曜9:00〜16:00のみ開館
■ 入館無料
※ 平成17年(2005)1月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。
取材・文/森田奈央
森田奈央
日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。