第17回 向ヶ丘遊園駅~東生田緑地を歩こう!
2006/04/011. 向ヶ丘遊園駅
2. 小泉橋
3. 光のしじま
4. 御菓子司 寿々木
5. 竹林
6. 三峯神社
7. 根岸稲荷社
8. 東生田緑地
おさんぽ記
昭和2年(1927)開業当時の駅舎が、今も使用されている小田急線向ヶ丘遊園駅(1)。今回は、この駅北口から出発します。駅前商店街を歩き始めて目に飛び込んできたのは、薬局の前に置かれていた「サトウ製薬」の遊具「サトコちゃんムーバー」。「体重50kgまで。ひとり乗りです」という注意書きを見て、子どもだけじゃなく、“大きい子ども”にも人気なのかな?
川崎市多摩区役所を見上げつつ、手前の信号を左へ。道なりに進んで行くと、先ほどの商店街にはなかったお店が並んでいます。畳店、ガラス店、風呂釜店、ガス器具店、金物店など、なんだか懐かしい気分。さらに、竿だけにはためく洗濯もの、どこかでケンカしている猫の叫び声。ここでは時間がゆったりと流れているようです。
通りを抜けたら二ヶ領用水。正面に小泉橋(2)が架かっています。案内看板「川崎歴史ガイド」に、「二ヶ領用水はここで津久井道と交わる。架橋は江戸後期の豪農・小泉利左衛門」と書かれていました。今まで歩いてきた道は、昔、津久井道(登戸道)として栄えた通り。明治時代、登戸村に設立された民衆宗教「丸山教」の信者たちが富士山詣でに出かける際、この橋のたもとにあった庚申塔に集合したという話も残されています。
橋を渡った先は、すぐに府中街道と交差。当時、このあたりには道行く人々ための宿屋や食事処、居酒屋が建ち、たいへんにぎわったそうです。今、この交差点を見守っているのは、井上麦氏の彫刻作品「光のしじま(3)」。新緑の葉々に埋もれるかのようにたたずんで、“静かな光”を放っていました。
「『以前はお店の前がメイン通りだったのよね』って、お客さんに言われることがありますよ」と話すのは、明治18年(1885)創業の御菓子司 寿々木(4)のお店の方。壁の額に飾られた「大日本帝國政府 菓子卸売営業免許鑑札」を見上げ、ほぅとため息が出ます。「多くの人がここを通って丸山教へお参りに行き、よく帰りにおまんじゅうをお土産に買ってくれたそうですよ」。道ひとつにもそれぞれの歴史があるものです。
さて、現在の津久井道(世田谷道)を横断し、銭湯「生田浴場」の煙突を横目に路地を入って行きます。「東生田自然遊歩道案内図」の看板を見つけ、それに従って竹林(5)へ。とたんに、視界に映るものはすべて竹だけになりました。上り坂の細い道をずんずん歩いて行くと、まるで竹やぶに吸い込まれるよう。異次元の世界へ飛ばされてしまいそうな感覚です。
この竹林には「根岸古墳群」という7〜8世紀頃の円墳が残されています。私有地のため、立ち入って見ることができませんが、遊歩道からこんもりとした盛り上がりを見つけると、もしかしてあれが古墳かもしれないな、と胸が高鳴ります。
視界が開け、あちらの丘にたくさんの赤い幟。少し歩調を早めて向かおうとしたら、右手にあった三峯神社(6)の小さな祠に気づかずに通り過ぎそうになりました。背をかがめて鳥居をくぐり、3歩歩いて祠の前へ。あまりにもかわいいサイズなので、こちらも思わず身をきゅっと縮めて、手を合わせました。
歩道橋を渡って、先ほど見えた根岸稲荷社(7)の階段を駆け上がります。境内に着いて、あら、びっくり。祠の前に整然と並んだパイプ椅子。これはいったい何のため? これから何か始まるのかな? 境内の奥にも椅子があるのに気づき、近寄ってみます。おぉー! 丘の斜面に家々が連なる風景が目の前に! せっかくなので椅子に座り、しばし観賞。点在する緑はまだ初々しい色合いで、心なしか街の風景もやわらかく見えます。
「たけのこがいっぱい出ているね。ひと雨降ったら、また出るね」。おばあちゃん2人組がベンチでのんびりおしゃべり。犬の散歩をしている人とも何度かすれ違います。東生田緑地(8)は「日向山の森」とも呼ばれ、「市民健康の森」に選定。地域の市民ボランティア「日向山うるわし会」が中心となって、雑木林に棲む野生動植物を守ろうと活動し、毎年イベントなども行っています。
森のなかで新緑のシャワーを浴びながら、歩いたり立ち止まったり。「あれ? 1つの芽から違う形の葉っぱが出ている」「あ、木の幹の模様は縦縞とか横縞とか、種類によって違うんだ」。体と心が自然といっしょに呼吸をし始めると、いろんなものが見えてきます。さぁ、たくさんの発見を抱えつつ、生田駅まで歩きましょう。途中でまた何か新しいものが見つかるかもしれません。
おさんぽクローズアップ!!
「御菓子司 寿々木(すずき)」
創業120年。昔から変わることなく作り続けている酒まんじゅうが名物。
季節の和菓子をはじめ、まんじゅう、団子、羊羹など、ショーケースいっぱいに種類豊富に並び、どれもおいしいと評判です。
最近、若い人にも人気なのは5種類の大福。豆大福、塩大福、草大福、黄身大福、大福とあり、もっちりとしたやわらか〜い皮に、甘さひかえめのこしあん、つぶあん、白あんが口の中でなめらかに溶けていきます。さすが、老舗たる絶品のお味なのでした。
■ 044-911-2063
■ 川崎市多摩区枡形3-1-13
■ 9時半〜20時半
■ 火曜休
※ 平成18年(2006)4月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。
取材・文/森田奈央
森田奈央
日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。