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おさんぽ通信

    第12回 鶴川駅~岡上を歩こう!

    2005/11/01
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    1. 鶴川駅
    2. 鶴見川
    3. 岡上の屋敷林
    4. 樹齢400年の柿の木
    5. 東光院

    6. 岡上神社
    7. 岡上営農団地
    8. 岡上丸山遺跡
    9. せい(塞)の神
    10. カジノヤ納豆

    おさんぽ記

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    小田急線鶴川駅(1)南口の改札を出て通路へ歩を進めると、線路をはさんだ北口に真新しいビルが建っているのに気づきます。以前、駅北口から鶴川団地へおさんぽした際、建築中だったビルです。「テナント募集中」と書かれ、白い壁はまぶしいばかりに輝いています。

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    踏切を背にして進み、見えてきたのは鶴見川(2)。遊歩道を歩き、睦(むつみ)橋を渡ります。川沿いで東京都と神奈川県の「河川管理境界」の看板を発見し、「ここからこっちが町田市で、ここからこっちが川崎市か……」。流れをのぞき込みながら行った右側の植え込みのなかには、「天保十(年)」「都築郡岡上村」などの文字が刻まれる馬頭観音がたたずんでいました。

    本村橋を右に入った先は、岡上の屋敷林(3)と呼ばれるいっかく。家屋を暑さや寒さから守り、落ち葉を肥料とした屋敷林は、今やすっかり少なくなってしまったもの。近所の人が竹ぼうきで落ち葉を掃き集める音を聞きながらゆっくり行くと、鳥のさえずりとともに頭上から黒い種が2つ、カツンコツンと落ちてきました。

    ゆるやかなカーブを曲がったとたん、目に飛び込んできたのは道路を横切る小動物。「あ、ネコ」と思ったものの、走り方が少しちがう気がして、「ん、ウサギ!?」。急ぎ足でナゾの動物を追いかけ、その姿が消えた駐車場の入口でばったり目が合ったのは、なんとタヌキ! あわてて、「カ、カメラ!」と写真を撮ろうとするも、タヌキはマンション1階のベランダの下へ入って行ってしまいました。

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    「今、そこでタヌキ見ました、グレーの!」と興奮して報告し、「ここ2〜3年は見てなかったなぁ!」といっしょに驚いてくれたのは、樹齢400年の柿の木(4)が立つお宅のご主人。畑でとれた野菜や自家製こんにゃくなどが並べられている家屋の裏にまわって、その木を見せてもらい、天高く広がる見事な枝ぶりに、またもやびっくりします。「家の初代が1684年に亡くなったっていう記録が残されているから、もしかして、その初代あたりがこれを植えたのかもしれないね」。現在は12代目だというご主人のこの家を代々、この柿の木はずっと見守ってきたのです。

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    岡上の古刹として有名な東光院(5)に寄り道した後、明治42年(1909)に都築郡岡上村にあった5つの神社が合祀された岡上神社(6)へ。境内からは鶴川駅方面が眺められ、眼下には岡上小学校の校舎が見下ろせました。

    校庭で遊ぶ子どもたちを横目に坂道を行くと、まわりに果樹園や畑が広がります。ここは岡上営農団地(7)。昭和48年(1973)から整備が進められた面積約35ヘクタール(東京ドーム約7.5個分)の農業団地です。かつて岡上では養蚕が盛んに行われ、桑畑がよく見られたそうですが、ここには柿やリンゴの果樹園、キュウリやトマトなどを栽培する温室などが続いています。

    岡上小学校へ引き返し、見せてもらったのは岡上丸山遺跡(8)。学校建設にともなう発掘調査で古代の家の跡や生活用具などが発掘され、それを記念する遺跡広場が敷地内に設けられています。説明書きには、縄文時代や古墳〜平安時代、人々はこの地に竪穴式住居を建て、集落を作ったとあり、広場に並ぶイスには竪穴式住居の作り方やその暮らしぶりが描かれていました。

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    道ばたで見つけたせい(塞)の神(9)も、この地に暮らす人々によって伝えられたもの。今でも、1月に行われる「せいのかみ(どんど焼き)」に合わせて、毎年、屋根が葺き替えられています。曲がりくねった坂道に古木と菊の花、そして、せいの神というまるで絵に描いたような風景は、日本のよき伝統が大切に守られてきたことを表していて、いつまでも眺めていたくなるものでした。

    さて、カジノヤ納豆(10)で納豆をおみやげに買ったら、もう1つ、おいしいおみやげがほしくなりました。それは、樹齢400年の柿の木のお宅の88歳のおばあちゃんが手作りした自家製こんにゃく。おさんぽマップ上では駅に帰ったことになっていますが、じつは、再び柿の木のお宅へ行ったのです。

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    昭和14年(1939)、柿生村と親交が深かった岡上は川崎市と合併したことにより、飛地となったと言います。「岡上は飛地だから住民同士の連帯感が強いんだよ。みんなでまとまって協力していこうっていう気持ちがね。例えば、学校の行事に地域の人たちが手伝いに行ったりね」と、柿の木のご主人とおしゃべり。「岡上小学校の裏にある山にはタヌキがまだたくさんいるんだって」。タヌキの話もまだ続き、こんにゃく、葉付きにんじん、きぬかつぎ、赤玉たまご、自家製らっきょうをおみやげに加えて、岡上のおさんぽは終わったのでした。


    おさんぽクローズアップ!!

    「川崎市 まちの樹50選 柿の木」

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    推定樹齢400年の禅寺丸柿。樹高13メートル、枝張10メートル、幹の周囲2.7メートルの巨木で、もはやハシゴをかけても柿の実には手が届かないほど。
    梶 司朗さん宅の家屋裏に立っていて、ひと声かければ自由に見学可。5月上旬の若葉の頃、10月下旬から11月上旬の赤い柿の実と紅葉の頃が美しいそうです。
    柿は月日が経てば経つほど甘くなるとのこと、400年を誇るこの柿の実はどんなに甘くておいしいことでしょう。


    ■川崎市麻生区岡上254

    「カジノヤ納豆」

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    岡上と言えば、「カジノヤ納豆!」という声があがるほど、地域にしっかり根づいた納豆店。これだけ有名店となったのは、その味がだれもが認める確かなものだからにちがいありません。
    看板商品の「しそのり納豆」を筆頭に、「黒豆納豆」は縁起ものとしてお正月に喜ばれ、「麦納豆」は体にやさしく、そのうえやみつきになる味などなど、種類豊富にそろった納豆はいずれも評判。ビールやお酒のおつまみにぴったりの「おつまみナットウ」も隠れた人気商品です。


    ■ 044-988-4577
    ■ 麻生区岡上488-1
    ■ 10時〜18時
    ■ 無休

     ※ 平成17年(2005)11月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。
    取材・文/森田奈央 

    森田奈央

    日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。