連載メニュー

おさんぽ通信

    第5回 鶴川駅~鶴川団地を歩こう!

    2005/05/16

    1. 小田急線鶴川駅
    2. 香山園庭園美術館
    3. あとりえ・う
    4. 鶴川団地セントラル商店街
    5. 有機・エコショップ

    6. 鶴川団地センター名店街
    7. ゴリラの鼻くそ
    8. 武相荘
    9. 坂道

    おさんぽ記

    小田急線鶴川駅北口(1)は現在、土地区画整理事業を展開。改札を出ると、建築中の8階建てビルが目に飛び込んできます。右手には小田急マルシェ鶴川。1階通路に面した総菜店やベーカリーのレジには、おかずやパンを手にしたたくさんのお客さん。ここを抜けて行くと鶴川団地や「こどもの国」へ行くバスのロータリーがあり、こちらにはバスを待つ人々の列ができています。

    駅前の通りを渡り、少し入ったところに香山園庭園美術館(2)。樹齢380年のケヤキが迎えてくれた後、瑞香殿が風格ある姿を現します。「純日本家屋の館内にシャンデリアが下がり、テーブルと椅子が置かれているのを見て、皆さん驚かれますね」と美術館の方。見事な屏風や貴重な収蔵品をじっくり鑑賞した後、日本庭園を散策、竹の縁台に座り、滝が池にすべり落ちていく様をしばし眺めました。

    鶴川街道を進み、大きな交差点を左折。坂道の広い通りをのぼっていきます。一軒家が並ぶ塀の外に、あとりえ・う(3)の看板。門の奥には版画家畦地梅太郎のアトリエが一般公開されていました。「作品づくりのために山へ行って家にいないことも多かった父でしたが、存在感のある人で、私は父が大好きだったんです」。娘の美江子さんが展示品1つ1つに愛情たっぷりのまなざしを向けます。「皆さんに見てもらいたいものは、まだまだいっぱいあるんですよ」。

    広い通りをさらに行くと、左右に鶴川団地の白い建物が見えてきます。買い物客でにぎわう時をこれから迎えようとしている様子の鶴川団地セントラル商店街(4)。お店の中からはおしゃべりと笑い声が聞こえてきます。玩具店の外には10円玉で遊べる懐かしいゲーム機が置かれ、子どもたちが肩を寄せ合っていました。ちょっとノスタルジックな気分になります。

    「北海道○○町○○さんのじゃがいも」「茨城県○○市○○さんのにんじん」などと力強い字で書かれたポップが目をひく有機・エコショップじんじん(5)。生産元が明確な有機野菜や、原材料から有機にこだわった豆腐やジュース、菓子類、お酒などが並びます。「以前は鶴川の駅前にお店があったんだけど、区画整理のためにこっちに引っ越して来たんだ。7月末にまた駅前に戻るよ」。

    「鶴川団地は建ってから、もう40年ぐらいになるかしら」とは、鶴川団地センター名店街(6)に出店する酒舗まさるやの奥さん。「この商店街はシャッターを下ろしている店舗がないの。アーケードや子どもを遊ばせる場所もあるから便利だし、イベントなども催される。ずっと変わらず、活気があるわね」。酒舗まさるやの壁一面には日本酒、焼酎、泡盛がびっしりと並んでいます。そこで見つけたのは、なんとゴリラの鼻くそ(7)??? 正体は黒大豆の甘納豆。甘さ控えめでお酒のおつまみにも相性ばっちりのお味だそうです。

    公園や小学校、中学校の校舎を彩る木々を眺めつつ、鶴川街道へ戻って行きます。脇道に入り、急な坂をのぼると、旧白州邸武相荘(8)がありました。「野人」と「韋駄天」と賞された白洲次郎・正子夫妻が暮らしたままの茅葺き農家。建物の柱、梁、壁、天井、障子、ガラス戸すべてが美しく、また、さりげなく置かれた骨董品、調度品に、ため息がこぼれます。書斎の窓に映った鮮やかな緑にも、おもわずはっとさせられました。

    「鶴川には雑木林が続いていて、そのあいだに畑が広がっていたんですよ」「畑一面にレンゲが咲くところがあって、川にはどじょうやザリガニがたくさんいました。まさに里山でしたね」。以前の鶴川の様子を街の人々は懐かしそうに話してくれます。そうした風景を思い描きつつ、今もこの街で大切にされているものをひとつひとつ反すうしながら、夕刻の淡い光が差し込む坂道(9)を鶴川駅へと下っていきました。

    おさんぽクローズアップ!!

    「香山園庭園美術館」

    天文13年(1544)、神蔵宗家第二十四代甚左エ門盛清が瑞香殿主屋を建立。明治39年(1906)に再建された木造書院造の和館を美術館として、室町時代の鎌倉彫香合、江戸時代の金蒔絵檜垣朝顔硯箱や古萩茶碗などを収蔵し、富岡鉄斎の屏風や御所絵屏風を常設展示。

    5〜8月には茶道具、9〜12月には文房具の展示が予定されています。 池を囲む築山が美しい池泉回遊式庭園には野鳥やタヌキが姿を見せるとか。5月中旬からはカルミアのかわいい花が咲きそろいます。


    ■042-735-5702
    ■町田市能ヶ谷町1022
    ■木・金・土・日・祝の10〜17時のみ開館
    ■月・火・水、7月11〜18日頃、年末年始休館
    ■入館料1000円

    「あとりえ・う」

    版画家畦地梅太郎が平成11年(1999)、96歳まで作品に向かい合ったアトリエを公開。
    山々を歩きまわり、山の風景や山男を描き続けた梅太郎。アトリエ内には、山や山男たちがいきいきとした表情をのぞかせる作品群をはじめ、版画制作道具一式、山へ行く際に持って行った水筒、バーボンとブルーのコップなど、梅太郎の愛用品も展示されています。
    作品は定期的に展示替えされ、4月7日〜5月29日は「版画展」、6月9日〜7月31日は「蔵書票展」を開催。


    ■ 042-734-8586
    ■ 町田市鶴川1-13-12
    ■ 木・金・土・日の11〜16時のみ開館
     木・金・土・日が祝日の場合は閉館
    ■ 月・火・水休館
    ■ 入館無料

    「武相荘」

    明治35年(1902)に貿易商の次男として生まれ、イギリス・ケンブリッジ大に留学した白洲次郎は、戦後、吉田茂首相に請われてGHQとの交渉にあたるなど、日本の復興に貢献した人物。一方、明治43年(1910)に樺山伯爵家の次女として生まれ、アメリカ・ハートリッジ・スクールに留学した正子は、後に文学・骨董の世界に躍進。
    昭和18年(1943)より移り住んだ茅葺き農家は、2人の暮らしぶりがかいま見られる家屋。第1、第2ギャラリーでは季節ごとの企画展が催されます。
    また、お茶処では抹茶・コーヒーのセット、「武相荘オリジナルフレンチ弁当」(予約制)をゆったりと味わうこともできます。(写真はお茶処)


    ■ 042-735-5732
    ■ 町田市能ヶ谷町1284
    ■ 10〜17時(入館は16時半まで)
    ■ 月・火、年末年始休館(夏期に臨時休館あり)
    ■ 入館料1000円

    ※ 平成17年(2005)4月にお散歩しました。料金などの各情報は変更になる場合があります。
    取材・文/森田奈央

    森田奈央

    日ごろ見過ごしがちなものを散歩しながら発見することに胸おどらせるおさんぽライター。散歩途中で猫と出会うことも大きな喜びとし、著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。