第76回　かゑで路（愛知県豊田市）

　東海地方屈指の紅葉の名所として知られる香嵐渓。そのお土産として長年親しまれているのが「かゑで路」だ。小麦粉に白味噌と蜂蜜、みりんなどを加えて練り、表面にケシの実を散らした松風と呼ばれる焼き菓子。もみじで赤く染まる香積寺（こうじゃくじ）参道（通称：紅葉のトンネル）の風情を表現したという。
　4センチ四方の棹物で切り分けていただく。見た目はカステラのようだが、卵を使っていないのでモチッとしながらもしっとりした食感が特徴だ。味噌の風味が香ばしく、まろやかな甘みとほのかな塩味が口の中で溶け合い、素朴で味わい深い。ケシの実のプチッとした食感がアクセントになっている。
　製造元の加東家は宿場町の古い町並みの一角にある。和菓子屋としての創業は70年だが、家の歴史は古く、座敷の床柱には1836年の加茂一揆でついた刃跡が残っているとか。家祖が貴族の風雅な遊びである源氏香の香元だったことに因み、源氏物語の『紅葉賀』に由来する「かゑで」という菓子も人気という。